姥神と呼ばれるもの~祖母神さまと出雲の姥神社
このシリーズでは全国の姥神信仰を紹介しているのですが、ここで扱う姥神とは違った、しかし同じ姥神と呼ばれる信仰が全国にあり、その一つの例として、以前その50で北海道江差町の姥神大明神を紹介しました。
その江差町の姥神と同じように、姥神信仰とは別の、“姥神”と呼ばれるものを紹介したいと思います。
・姥神という地名
姥神峠にある姥神トンネル
その60で福島県の地名で“姥堂”を紹介しましたが、“姥神”という名前についても地名等として使われている場合があります。例として、長野県の塩尻市と木曽町の境界に姥神峠があり、トンネルにもその名前が使われています。もともとなにか姥神信仰に関係のあるものがあった可能性もありますが、全国的に分布している姥神社に関係していた可能性もあり、その由来についてはわかりません。
・静岡県藤枝市の祖母神様
静岡県の祖母神さん
祖母神さん縁起
静岡県藤枝市に祖母神さんと書いて“ウバガミサン”と呼ばれている社があります。縁起を見ると、幼子を誤って死なせてしまった乳母が自害し、それを偲んで祀られたとされ、また、社にも姥神に関係するようなものがないため、姥神信仰とは関係がないと思われます。
乳母の話が縁起とされていますが、奥に大国主命が祀られていることなどもあり、もともとは姥神社だった可能性があります。
・出雲大社の姥神社
先の例で挙げた姥神社についてですが、同神社は全国に点在し、その由来も様々です。そしてその字には“姥神”が含まれています。その一つが出雲大社にあります。
出雲大社の神楽殿にある大注連縄
出雲大社の本殿再現模型
島根県にある出雲大社は、大国主大神(オオクニヌシノオオカミ)を祭神とし、創建は神話時代とされる非常に歴史の古い神社のひとつです。日本の神々が集まる場所とされるため、全国の神々が出雲の国に集まる10月(旧暦)は神無月と呼ばれますが、この地域では神有月と呼ばれています。
本殿はもともと3本の柱によって非常に高い位置にあったと言われ、伝承では92メートルもの高さがあったと言われます。その復元模型を隣接している出雲歴史博物館等で見ることができます。
本殿の西側にある神楽殿には、有名な巨大注連縄が張られてあり、重さは約5トン、長さは13メートルあるそうです。この神楽殿は明治時代に作られ、本殿とは別に大国主大神を祀っています。
出雲大社にある姥神社
この神楽殿の裏、國造家鎮守杜に姥神社があり、読み方も“ウバガミノヤシロ”となっています。これは日本の神々を生んだイザナギとイザナミを祀ったもので、夫婦和合、子孫繁栄に霊験があるとされています。
全国にある姥神社は、歴史の深いこの神社が元になっている可能性が高いと思われます。
姥神社はその祭神や霊験について、このシリーズで言うところの姥神信仰の形成に関係した可能性はありますが、直接的な関係性は見いだせません。
出雲大社の姥神社の縁起
次回に続く・・・
寄稿文
廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家
余滴
まんだらの里「山形県・作谷沢」において、まんだら塾塾生の皆さんによって建立された
故・日原もと子先生(東北芸術工科大学名誉教授・まんだら塾塾長)の記念碑。
姥神信仰研究家 廣谷知行(ひろたに ともゆき)氏 撮影
題字 城戸口 榮子(旧姓 吉田)氏
日原もとこ慰霊碑除幕式
写真は、30数年に及ぶまんだら塾塾生の皆さん
山辺町町長、 慶松寺ご住職、友人、日原もと子・弟二人です。
尚、色彩学会、大学、県・市・郡・町・デザイン等関係者は、別の日に訪ねておられます。
※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。
発行元責任者 鎹八咫烏(ZIPANG TOKIO 2020 編集局)
アーカイブ リンク記事をご覧ください。
江差・姥神信仰とは別の姥神様
歴史のある姥神大神宮 屋根は石州赤瓦で葺かれている(近江商人により北前船で運ばれた)
北海道江差町とニシン伝説
江差町は北海道の道南西側の日本海に面した場所にある、人口約8千人の町で、民謡「江差追分」の発祥の地でもあります。
この町にはニシン伝説が残されていて、その大筋は、
どこからともなく老婆がこの地に現れ、その予言がよく当たるので、「折居様」と呼んで人々に敬われるようになった。
ある年、一匹の魚も捕れないことがあり、老婆が一心不乱に祈ると、岩の上に一人の翁が現れ、小さな瓶を取り出し、「この白い水の入った瓶を海に投げ入れるとニシンという小さな魚が捕れるようになる。」と告げ姿を消した。
老婆が教えられたとおりにすると、海水が変わり、今まで見たことの無い魚が群れをなして押し寄せてきた。老婆はこれがお告げにあった「ニシン」であろうと人々に教えた。
人々がニシン漁で暮らしに困ることがなくなると老婆の姿は消えていた。老婆が住んでいた場所に神像があったので、これを「折居様」としてあがめた。
という内容になっています。
(詳細は下記のURLよりご覧ください。)
ZIPANG-7 TOKIO 2020全国の姥神像行脚(その50)江差・姥神信仰とは別の姥神様・・・【寄稿文】廣谷知行
https://tokyo2020-7.themedia.jp/posts/41692341
福島の姥神たち・多くの姥神が祀られた福島県
その51から
福島県会津地方の姥神を取り上げていますが、
同県には非常に多くの姥神が祀られています。
喜多方市のJR姥堂駅
信仰も盛んだったと思われ、それを裏付けるように喜多方市にはもともと姥堂村だった場所にJR磐越西線に姥堂駅もあります。近辺には姥堂川があるなど、「姥堂」が地名として使われるほど姥神の信仰が厚かったと言えます。さらに、新潟県出湯温泉のような本尊型と、山形県湯殿山のような境界型の両方が同じ地域内に混在している珍しい場所と言えます。
おそらくですが、福島県の飯豊山や吾妻山の山岳信仰に湯殿山の境界型が取り入れられ、と、同時に地域では新潟県出湯温泉のような本尊としての信仰が入り込んで、両方同じように大事にされてきたのかと考えられます。
本尊型としてはその51で紹介した関脇優婆夷堂の信仰が盛んだったと思われます。
さて、そんな地域ですので姥神信仰にもとづく姥神像がほとんどですが、たまに地獄信仰に対応する奪衣婆像もあり、混乱することがあります。そこで、同県会津地方にある主な奪衣婆像を今回ご紹介します。
照国寺の十王像
福島県南会津町に、御蔵入三十三観音第25番札所となっている照国寺があります。ここは鎌倉時代から戦国時代にかけて伊南郷を支配した河原田氏の菩提寺です。同寺に木製の十王像が祀られ、その中に奪衣婆像もあります。閻魔像などと一緒にあり、地獄信仰として祀られたものと言えます。
(詳細は下記のURLよりご覧ください。)
ZIPANG-8 TOKIO 2020 全国の姥神像行脚(その60)福島の姥神たち・多くの姥神が祀られた福島県・・・ 【寄稿文】 廣谷知行
https://tokyo2020-8.themedia.jp/posts/50835449/
〜まんだらの里の不思議な話‼️〜
―「まんだらの世界の民話」のプロローグから―
まんだら世界の民話 白鷹山(虚空蔵山)
「白鷹山(虚空蔵山)」
置賜・村山両郡の境にあり、大山なり。堂は置賜郡にあり。北のふもとは村山郡畑谷村なり。その北の両方に大峰あり。俗に機巧森(はたしもり)と呼ぶ。 一に黒森とも言う。 西は胎蔵界を表し、東は金剛界を表し、容相同じと言えり。この所、置賜郡に通ず。俗に境の虚空蔵という。
宝暦十二年(1762)に書かれた「出羽国風土略記」を補う目的で、寛政四年(1792)筆写された「けい補出羽国風土略記」にはこのように書かれてある。
胎蔵界と金剛界、両界まんだらの世界がここに存在したことをはっきりと示している。
山のてっぺんのまんだら世界。
ここは、
山紫秀麗(さんししゅうれい)なる山そのものが神仏である。森々たる風物一つに精霊神怪がこもる。
ここには、
狩猟、採取の暮らしを護り、衣食住の材料を与え、灌漑水をもたらし、風雨を支配する山の神や水の神が鎮もる。
こここそは、
山に生きる者たちの共有の郷。周りに住む人たちの原風景たる地文。
これは、
神仏も人間も、動植物も共存している山里まんだらの物語である。
ー烏兎沼宏之『まんだら世界の民話』筑摩書房1988よりー
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